2026.02.10

「朝はどん!どんどどん! 篇」

2026年1月に公開された日清食品のCM
「朝はどん!どんどどん! 篇」

話題になっているCMです。個人的には、強く印象に残る優れたコミュニケーション設計だと感じました。

話題性を押し上げた要素の一つとして挙げられるのが、このパロディが一方的な引用ではなく、フジパンの協力のもとで制作された企画であることが公表されている点です。
関連報道でも両社の関係性を前提としたオマージュ的な企画として紹介されており、単なる模倣ではない文脈共有型のコミュニケーションとして機能しているように見えます。

広告同士が対立するのではなく、文脈を共有して遊ぶ。
この構造そのものが、今回のコミュニケーションの特徴の一つのように感じられます。

冒頭のシーンですでにどこか違和感があり、その時点で面白さが生まれているように感じられます。
明るい朝の食卓、軽快なテンポ、どこか聞き覚えのあるリズム。視聴者は無意識のうちに既存の記憶と照合を始めているのかもしれません。

そしてコピーが流れた瞬間に、多くの人が気づきます。

「朝はパン、パンパパン」

という長年刷り込まれてきたリズムと、

「朝はどん!どんどどん!」

との対応関係に。

※誇張はされています。子役との掛け合いも素晴らしい

ここで起きているのは単なる言葉の認識ではなく、記憶との比較のように思えます。
違和感の正体が理解された瞬間、そのズレが笑いへと転換されているように感じられます。
つまりこのCMのユーモアは、画面上の出来事だけでなく、視聴者の記憶との相互作用の中で成立しているのではないでしょうか。

世界観や音楽の再現度の高さ自体が話題となり、フジパン側担当者からも再現性を評価するコメントが出ている点も興味深いところです。
表現精度の高さが好意的な受容に寄与していることを示唆する要素の一つのように感じられます。

ここにザコシショウのキャスティングが重なることで、表現の振幅が広がっています。
見られる誇張性は演出として後付けされたものというより、キャラクターそのものが持つ芸風の強度から自然に立ち上がってくるように見えます。

誇張を設計するのではなく、キャスティングに内包させる。
この判断によって違和感なく笑いの強度を高めている点は、クリエイティブとして整理された設計のように感じられます。

単に元ネタをなぞるのではなく、コピーのリズム構造を正確に捉え直し、朝食CMとしての文脈や空気感を壊さず共有したまま差分を置いている。そのバランスが丁寧に保たれている印象を受けます。

やっていることはパロディであっても軽さは感じられません。
むしろ本気で向き合っていることが伝わるからこそ、視聴者は好感を持っているのではないでしょうか。
笑いながらも表現の確かさを感じる。そのバランスが、このCMの印象を強めているように思えます。

新しい意味を構築することだけがクリエイティブではないのかもしれません。
既存の記憶や関係性をどう扱うかによって、伝わり方は大きく変わります。

パロディという形式の中にあっても、本気度が宿れば表現は軽くならない。
むしろ意図や姿勢が透けて見えるからこそ、受け手との距離は近づいていくように感じられます。

コミュニケーションは情報の伝達だけでは成立しないのだと思います。
送り手の姿勢や熱量、そこに込められた想いがあってこそ伝わるものになる。

今回のCMからは、そうしたシンプルな事実が改めて感じ取れました。
自分自身もまた、そうした想いや情熱がより伝わるクリエイティブを目指していきたいと思います。

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